平ノミ(チゼル)の幅の選び方と使い分けで変わる【斫り(はつり)】の切れ味と効率
こんにちは。
湘南ユーテック合同会社です。
今回は、斫りに使用する平ノミ(チゼル・タガネ)の選び方について、
切付け作業に使用する目的という観点からお伝えします。
💡最近の現場では、高強度コンクリートが増え、「躯体が硬くて切り付け作業が進まない…」そんな悩みを感じたことはありませんか?
実はその悩み、平ノミの使い分けで改善するかもしれません。
一般的には50mm幅が定番ですが、コンクリートの硬さや用途によって、最適な幅を選ぶだけで削れる力がまるで違うのです。
✅️この記事では、現場での実体験をもとに、平ノミの幅の選び方と使い分け方を解説します。
・【電動はつりの基本】平ノミを多用する切りつけ作業とは?

例:型枠の都合で、本来あるべき形からハミ出た不要な部分を削りとる作業。
💡斫り作業の中でも、躯体整形における微調整や、大斫り後の細かいまとめ斫りを通称【切付け斫り】と呼ぶことが多いです。
現場スラングのようなものなので確定された定義ではなく、人により切付けと呼ぶ作業範囲の幅には差があります。
今回は、画像のように【型枠の僅かなズレなどで生じる切付け作業】を前提として平ノミの選び方を考えていきましょう。
切付け作業についてはこちらの記事もどうぞ👇️
斫り(はつり)の定番!切り付け作業の注意点!【意外に雑な職人が多い?】
・コンクリートの高品質化で50mmの平ノミだと削れない!
近年、RC造建造物では耐震・免震に対応するために高品質・高強度のコンクリートを使用する現場が増えています。
ちょっとした斫りでも、一般的に使用している50mm程度の幅の平ノミだと、思うように削れずに作業が進まないなんてことが増えてきました。
ショットブルなどの尖ったピックと違い、面で削ろうとする分、硬さによる反動がダイレクトに手に返ってくるため、
無理に作業を続けても機械にも身体にもダメージが蓄積されていくばかりです。
☝️そこで、意外とその存在に気づいていない人が多いのが35mmの平ノミ。
【電動ハンマーの平ノミ=50mm】でしょ?と先入観を持っている職人さんも実は多いのです。
必要に応じて多様化されたコンクリートの質や硬度の対応するために、
以下のセクションで平ノミの使い分けで生じるメリットや、より効率よく作業する方法を紹介します。
・平ノミ幅の使い分け:作業効率を最大化するサイズ選び
① 【定番】50mm幅:オールマイティな万能選手
まず斫り屋が最初に揃える定番と言っても過言ではない50mm幅の平ノミです。
壁の下部の切り付けや、床に広がったコンクリートの溢れ取りなど、どんな現場でも使える“オールラウンダー”であり、
斫り屋の装備一式として最低一本は持ち歩くべき定番サイズです。複数本持ち歩く場合でも、この50mm幅をベースにするのが基本です。
② 【硬いコンクリ用】35mm幅:破砕力特化の「切り札」
近年の高強度コンクリート相手では、50mm幅では力が分散してしまい、食い込まずに弾かれてが刃先が逃げることがあります。
☝️そんな時は35mm幅を選びましょう。
幅を狭めることで打撃力が一点に集中し、削る面積が狭くなるデメリットを補って余りある、格段の破砕力向上を実現します。
50mmと合わせて常備し硬さに合わせて使い分けることがおすすめです。
③ 【剥がし専用】75mm〜幅:広い面で勝負するケレンの達人
75mmを超える幅は、コンクリート破砕には不向きです。
幅が広くなるほど力が分散して破砕力が弱くなることを実感するサイズです。
しかし、この広い面を活かして、防水材・発泡ウレタン・モルタルや薄いノロなどの剥がし作業(ケレン・剥離作業)には非常に有効です。
平ノミの中でも“ケレン・剥離専用”として持っておくととても便利に活用できます。
✅上記以外にも形状や長さ、幅の違いなど様々な平のみがあります。
基本的な切り付けなどの斫り作業においては、今回紹介した種類を覚えておけば多様な現場の状況に対応できます。
・私が斫り作業で選ぶ平ノミ・チゼルは清水製作所!
【清水製作所】ラクダブランドに絶大な信頼

私自身、平ノミをはじめ、ショットブルなどの先端工具は清水製作所のラクダ(RAKUDA)ブランドを長年愛用し、お世話になっています。
ラクダのノミは、私達がメインとして使っているハイコーキの斫り機と相性が良く、
使用時のシャンクのガタつきが少なく、電動ハンマーへのフィット感が抜群だと感じています。

他社製品の中には、シャンクの精度やサイズ公差の相性が合わないものもあり、
使用中にガタつきが生じて破砕力がロスしたり、摩耗によってノミが空回りする原因になることもあります。

あくまでも主観になりますが、
電動ハンマーのノミを一式揃えるならまずはラクダで間違いない──これが現場の経験に基づく私の実感です。
・平ノミでの切付け作業の効率を高める:あなたの技術を最大化する戦略的思考
① 切れ味が鈍る前に刃先を研ごう|「研ぐ時間<斫りの速さ」
どんな良いノミでも、先端が潰れてしまえばコンクリートへの食いつきが悪くなり、作業効率はガタ落ちします。
「手を止めて研ぐ時間がもったいない」という気持ちは分かりますが、実際は「研ぐ時間<斫りの速さ」。
潰れた先端で無理やり作業を続けるよりも、マメに研いだ方が結果的に速く作業が進みます。
繊細な作業を行う上でも、潰れたチゼルで斫るとコンクリートと接する面が大きくなり余計な躯体の破損を招きます。
消耗と作業効率のバランスを考えて、適切なメンテナンスを心がけましょう。
メンテナンスと安全:平ノミの研磨時のコツと安全対策
平ノミの研磨はベビーサンダーで行うのが一般的です。しかし、そこにも経験者のこだわりと安全管理が必要です。
- 水冷の徹底:水バケツなどの用意
ベビーサンダー(グラインダー)で研磨する際、一度に時間をかけて極端に摩擦熱を与えすぎると
刃先が「焼き戻り」を起こし金属がもろくなり、せっかく研いだ刃先が潰れやすくなります。
水で冷ましながら研ぐことで、ノミの硬度と寿命を守ります。 - 火災と保護具:安全カバーや保護メガネの徹底
研磨時は火花が出るため、保護メガネは必須です。グラインダーの安全カバーも緩みや破損がないように確認しましょう。
また、水冷用に用意した水バケツは消火対策としても有効です。
特に、建設現場では身の回りに燃えやすいものが無数に存在します。
壁に吹きつけた発泡ウレタンや積み上げられた段ボールなど、
火花が飛んだ先に可燃物が無いことをよく確認しましょう。 - 法的な注意点:特別教育の受講
一見気軽に使えてしまうグラインダーですが、研削といしの取替えには、特別教育の受講が義務付けられています。
斫りや解体に従事する上で必要な資格になりますので持っていない方は早めの受講をおすすめします。
💡グラインダーを仰向けにし、研削砥石の側面にノミ先を当てて研磨する方法がよく見られます。
基本的には砥石の側面を使用する方法は予期せぬ破断の恐れもあるため推奨されていません。
まずは上記の安全対策をしっかり確認した上で自己責任で
② より硬いコンクリに対応するために「35mm平ノミ」と「昇圧機」の選択
コンクリの強度が硬い、だが作業を進めたい。
躯体の硬さもさることながら、ダブルパンチで影響を受けるのが電気の弱さです。
それを補って電動斫りの手助けをしてくれるのが昇圧器です。

そもそも電動工具がベースである斫り作業では安定した電圧が必要です。
現場の電源は、長距離配線や共用電源の影響で電圧が下がり、電動ハンマーの性能が減少することが多々あります。
この電力不足という「構造的リスク」に対し、昇圧機(トランス)で適切な電圧に回復させ、破砕力重視で35mm幅の平ノミと組み合わせる。
これにより電圧低下による作業速度の低下はだいぶ改善されるはずです。
現場の状況下の中だけで作業することも決して悪いことではないですが、
状況に応じてポータブルトランス【昇圧器】を工具と一緒に持ち込んで対応することで、より職人としての付加価値が高まります。
私たちが持ち歩いている昇圧器は15000〜20000円クラスの物なので、個人的に作業効率を高めたい方でも購入しやすいと思います。
正常な電圧が来ていれば昇圧器でさらにパワー増大化!
ここで私が言う昇圧器は15〜25%の昇圧効果があります。
正常な100v程度の電圧が来ている場合最大125v程度まで引き上げることができ、電動ハンマーの出力が目に見えて変わります。
昇圧器で電圧を上げパワーゴリゴリにすることで今までとは全然違う破砕力で作業を進められます。
硬いコンクリに対応するために35mm幅の平ノミを使用し、昇圧器で115〜125vの電圧で切付けを行うと作業速度の上昇が見込めます。
ですが、もちろんデメリットがあります。
💡ゴリゴリ昇圧によるデメリット
- 必要以上の電圧による工具への負担
メーカーが推奨している以上のパワーを引き出す反面、予期せぬ故障が発生する可能性も否定はできません。
工具によっては適切な使用範囲外で保証が受けられなくなるケースもあるかもしれません。
あくまでも自己責任の範疇で行いましょう。 - 振動増加による身体への負担
ただでさえ振動障害の可能性のある斫り作業、その出力を上げて使用するということは跳ね返ってくる負担も増大します。
昇圧時だけにかかわらず、日頃から防振手袋などの保護具で適切に対策し、振動リスクに備えましょう。 - 持ち込み時のスピードが当たり前になってしまう
一度、昇圧器を持ち込んで作業してしまうとその作業効率にヤミツキになり手放せません(私です)。
現場サイドとしてもそのスピード感が当たり前になってしまうと「他の人が来ると仕事が進まない」などのイメージが生まれかねません。
自分個人の付加価値としては成功ですが、会社のメンバー全体として不具合が生じないように注意しましょう。

私は今のところ昇圧したことによる故障などはありませんが、メーカー推奨の使い方ではないので予期せぬ不具合の可能性があります。
日頃から機械のメンテナンスを心がけるとともに、過度なパワーアップは自己責任で行いましょう。
③ こまめに掃除をしながら斫り残しがないか確認

☝️些細なことのようですが、丁寧な仕事を行う上でこれが一番大切です。
壁際の切付け作業を進めていくと、当然斫りガラが散乱している状況です。
スピードだけ求めて掃除を後回しにすると、やり残しや雑な部分に気づくことができず、
終了間際に急いで掃除をすることで作業箇所の確認もしないまま終えてしまい、
後日、雑な作業を指摘され職人としての口コミが低下することまで考えられます。
広げすぎないエリアで掃除をしながら作業を進めることで見落としがちなダメをその場で手直しして、
安心して次の業者に渡すことが出来るようになります。

☝️切り付けが甘い例
一見キレイに斫ったように見える【平ノミでの切付け】も、
掃除の際によく見たら上の画像のようにまだ壁から出っ張ってるなんてことはベテランでもよくあることです。
こまめな確認して丁寧な仕事を心がけることで得られる左官屋さんや他の業者さんからの良い口コミは、
【ただスピードを求める】こと以上にあなたの価値を高めていくはずです。
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・平ノミ・チゼル・タガネ?どの呼び方が正解?
特に若手のうちは、先輩によって道具の呼び方が違うこともあったりして悩むこともあるかもしれませんが、
そもそも「平ノミ」「チゼル」「タガネ」は大まかに同じ道具を指す言葉です。
職人でも混在しがちですが、ざっくり以下のイメージです。
- チゼル(chisel):英語名。金属やコンクリートなど硬い素材を削る工具全般を指す、最も広い用語です。
- タガネ(鏨):日本語名で、「鑿(のみ)」を意味する漢字を使います。
- 平ノミ:コンクリート斫りなどに使う“平たい先端”のチゼル(タガネ)のこと。
基本的には現場内では【平ノミ】【平タガネ】などと呼ぶことが多く、あまり【チゼル】と呼ぶ方は見ないように感じます。
商品名が【スケーリングチゼル】【コールドチゼル】なので、間違いではないですが、
職人間では正式名称より通称で呼ぶほうが通じることが多いです。
・まとめ:作業に合わせて選ぶその一本が、仕事の質を変える。
今回は、斫り作業の基本である「切付け」をテーマに、平ノミの戦略的な選び方と使い方について解説しました。
「たかがノミ一本」と思うかもしれません。
しかし、現場の状況に合わせて最適な道具を選び、その性能を常に最高の状態に保つ。
その一つ一つの「こだわり」の積み重ねこそが、あなたを「言われたことだけをこなす作業員」から
「どんな状況にも対応できるプロフェッショナル」へと引き上げてくれるのです。
この記事で学んだことを、明日からのあなたの「武器」に変えるために。
最後に、今日からすぐに実践できる3つのアクションをまとめます。
【明日からできる、あなたの価値を高める3つのアクション】
アクション①:まず、自分のツールバッグを見直そう。
あなたの平ノミは、【50mm】一本になっていませんか?
近年の硬いコンクリートと戦うための「切り札」として、まずは35mm幅の平ノミを一本、あなたのチームに加えてみてください。
その食いつきの違いに、きっと驚くはずです。
アクション②:「研ぐ」時間を、スケジュールに組み込もう。
切れ味が鈍ったと感じたら、「時間がもったいない」と思わず、勇気を持って手を止めましょう。
水で冷やしながら丁寧に研いだその数分間は、午後の作業効率を劇的に改善する「時間の投資」です。
アクション③:「環境のせい」にするのを、やめてみよう。
「現場の電気が弱いから進まない…」と諦める前に、できることはありませんか?
昇圧機のようなツールを駆使して、最高のパフォーマンスを発揮できる環境を自ら創り出す。
その積極的な姿勢が、あなたを次のステージへと導きます。
各種斫りノミ・昇圧機など、こだわるほど荷物が増えていきます。
ですが、多様な作業に対応できる選択肢を多く持つことはあなたの【職人としての付加価値】を上げることに繋がります。
呼ばれて行った現場で「あれが無いから出来ません」とならないように、
「前回来たあの人はやってくれたのに」と言われないように。
技術の幅を広げるために、まずは平のみ一本から見直してみませんか?


